アウトドア・バリアフリー 身体障害者や高齢者も白銀の世界へ飛び出そう!

バリア‐フリー
(バリアは障壁・障害の意) 身体障害者が社会生活を営むうえで、支障がないように施設を設計すること。また、そのように設計されたもの。

ノーマライゼーション
どのような障害を持つ人であっても特別視せず、社会に生活する個人として、一般の社会に参加し、行動できるようにすべきであるという考え方。デンマーク、スウェーデンなど北欧の国々で発達した社会福祉の理念であり、1981年の国際障害者年のテーマ「完全参加と平等」を支える哲学として紹介されて以来、わが国においても浸透し、定着しつつある。

身体障害者・高齢者と共生していく上で、二つのキーワードがあります。それは、バリアフリーと、ノーマライゼーションです。この考え方をさらに押し進めて、レジャー。それもアウトドア・スポーツに、これらの考え方を取り入れていけないでしょうか?
今回は地域柄(と、趣味で)、北海道のような寒冷積雪地でのアウトドア・ウインタースポーツに焦点を当てて情報収集を行いました。
北国では、レジャーに限らず冬季下での一般社会参加のためにも、当然大きな自然障害(雪)を克服する手段を考えていかねばなりません(車椅子使用者は、冬期間は外へでることが非常に困難です。私の調査した範囲では、ほとんど不可能なケースばかりでした。)。アウトドア・バリア・フリーで得られた技術は、冬の一般社会生活にフイードバックされて、身体障害者の冬期間の生活を改善させる効果が期待できます。

アウトドア・バリアフリーは、これを読んでいるあなたにも無縁とは限りません。負傷の結果下半身不随になってしまったり、高齢化にともなう身体機能の低下によって、ウインタースポーツをあきらめて良いでしょうか?私なら我慢できません。
アウトドアスポーツ・バリアフリーは、現在はまだ発展途上の分野で、研究段階のものも多いのですが、すでにかなりユニークな製品が登場しつつあります。
そのうちのいくつかを紹介しましょう。

チェアスキー(アルペン)

まず、一番認知度の高い、チェアスキーを紹介します。パラリンピックでも大迫力の大回転などを見せてくれている、アレです。
どちらかの足に障害のある選手は1本のスキーとアウトリガーというストックのさきに小さなスキーがついた用具を使いますが、両方の足に障害のある選手は1本のスキーの上にいすをのせたチェアスキーを使います。
写真1,2,3は、最新鋭のモノスキー”チタン・モノスキー アルピナ”です。
日本では、ニック株式会社(http://www.jin.ne.jp/nick)が取り扱っています。
実際の使用シーンでは、ゲレンデで車椅子からモノスキーに乗り換え、ストックで漕いで進み、一人でリフトへの乗り降りもできます。
さらには、訓練次第でコブ斜面を楽しめるそうです。
チェアスキーには、このモノスキータイプの他に、バイスキーというタイプ(写真4)もあります。

写真1

写真2

写真3

写真4
モノスキー
”チタン・モノスキー アルピナ”のスペック
米国グローブイノベーションズ社製
1本スキー(市販のもの)、バケットシート、サスペンション、パイプフレームで構成され、アウトリガーを両手で操作して滑走でき、操作しやすいサスペンションセッティングが特徴。
軽量フレーム(チタン製〜11kg、クロモリ製〜13kg)

バイスキーのスペック
米国スポークスンモーション社製
2本スキー(専用)、バケットシート、パイプフレームで構成され、アウトリガーを両手で操作して滑走でき、連動する2枚板により、スムーズで比較的スローな挙動のため座位バランスの良くない方やモノスキーのエントリーモデルに最適。

どうですか?すばらしい製品ですね。これは私も乗ってみたいです。
特に足廻りの複雑にリンクされたサスペンションなんかは、メカ好きにはたまりません。
ただし、こいつは深雪には向きません。浮力が不足気味ですし、舞い上がるパウダースノーによって、視界が遮られてしまいます。転んだ後うまく脱出しないと、パウダーで窒息するかも・・・。
ちなみに、チタン・モノスキーで、お値段は50万円です。うーん。スキーとしてはやっぱり高いですよね・・。
バックカントリースキーにはまだつらいモノがありますが(第一に自力で登れない)、春山のへリスキーなどは十分使用可能でしょう。
名作ビデオ、ポニーキャニオン”snow air junky”品番:PCVG 10431には、大雪のバックカントリーを滑る見事なチェアスキーヤーが登場します。これは必見です。ぜひ買って下さい(^_^;)。

チェアスノーボード
まだ、試作段階のようですが、チェア・スノーボード(写真5)という製品も開発されています。
二本の櫂で漕ぎ、バランスを取りながら滑るものです。スノーカヤック(雪の上をオールでうまくバランスを取りながらカヤックで滑り降りるスポーツ)と似たようなコンセプトですね。
そういえば、脚力をあまり必要としないスノーカヤックも立派なバリアフリー・アウトドアスポーツになるかも。
ああ、でもスノーカヤックは普通のスキー場では乗り込みの許可がでないでしょうね(苦笑)。

写真5

チェアクロスカントリースキー
こちらは、シンプルな構成のクロスカントリースキーです(写真6)。
これを使ったバイアスロン競技もあったはずです。
スキーの代わりにスケートの刃のついたそり(アイススレッジ)に乗り、両手に持ったスティックで氷をかいて4百メートルのスケートリンクを進む。アイススレッジスピードレースという競技もあります。
どちらも腕力で勝負という意味では、車椅子レースと似ていますね。

このように、スノースポーツのバリアフリー化は進んでいますが、チェアテレマークスキーは・・・無理だろうなあ。


写真6

キック・スレッジ
エスラ社(ESLA) キック・スレッジ
フィンランドのエスラ社では、お年寄りや体の不自由な方の日常生活を支援する製品を作っている会社です。
このキック・スレッジ(写真7,8)は、何世代も前から北欧で愛用されている製品で、いわば冬の自転車のような使われ方をされているそうです。
片方のそりの上に足を載せて、もう一歩の足で蹴って進みます。凍結路では、かなり楽に移動できます。
全体の形状は昔日本にもあった木製のそりとよく似ています。犬ぞりともよく似ていますね。
重度の身障者には使えませんが、軽度の歩行障害者や、高齢者には冬でも使える歩行器として利用できます。
オフシーズンや、雪の無いところでも使用するための車輪を取り付けることもできます。

もちろん、健常者にも楽しめるもので、日常生活で買い物に利用したり、アウトドアスポーツとして、圧雪の林道や氷結した湖上でツアーを楽しんだりできます。
価格も安く、定価で22000円(税別)いかが?
問い合わせは、(財)北海道難病連TEL011-512-3233


写真7


写真8
アウトドア向け車いす

四輪駆動タイプ電動車椅子

写真9

写真10

写真11


写真12

写真13

写真14

INDEPENDENCE 3000(写真9)
Johnson & Johnson社が開発した、四輪駆動六輪車椅子です。
四輪駆動により障害物や階段を昇降でき(写真10,11)、さらにgyro-balanced systemを搭載した車椅子です。
内蔵されたジャイロセンサーにより、座席とユーザーの重心を連続的に調整して、常にユーザーが安定して座っていられるようになっています。
さらに驚くべき事に、この車椅子は二輪だけで立ち上がることもできます。高いところにある物を取ったり、高い視線を得ることができるのです。
こういう装置は誤動作が怖いのですが、高度なバックアップシステムにより安全性を高めているそうです。
詳細は不明ですが、新バッテリーの採用により、一回の充電で一日中行動が可能となっています。
価格は$20,000以内で出す予定となっています。日本では250万くらいですか?
現在は製品テストと臨床試験を行っており、「FDAの承認がとれるまで販売できないので、あしからず。」状態だそうです。
将来的には子供向けのバージョンを開発する計画のようです。
詳細は、http://www.indetech.com

実売されているものとしては、フィンランドのチャス・ウィール社製「フォー・エックス」という電動車椅子があります(写真12,13,14)。
四輪駆動4WD,四輪操舵4DSの機構を持ち、レカロシート、バランサー、ウインカー、ライトという豪華装備付き。普通の車椅子より一回り大きいが、走破性は半端じゃない!勢いをつければ30センチの段差も乗り越えられます。しかも、シートが移動して重心を変えたり傾斜に対応したりできます(残念ながらマニュアル操作ですが)。
これは特に冬用というわけではありませんが、北海道難病連が札幌市内で試験走行したところ、アイスバーンの道は若干滑ることはあるものの、ほとんどの雪道で走行可能だったというです。なにせ、フインランド製ですからね。
さて、良いことづくめに見える、フォーエックスちゃんですが、欠点もあります。まず、価格が150万円(非課税)と高価なこと。ちょっとした軽自動車並のお値段です。フィンランドでは100万円以下だそうですが、それでも高い。
それと、自分で乗ってみて感じたことですが、4DS特有の欠点で、車輪が現在どのような角度なのかわかりません。スティックを中立にしてもステアリングが中立になるわけではないので、思わぬ方向へ走り出すことがあります。この辺は要改良ですね。

低圧バルーンタイヤ装着車椅子
ここに示したのはビーチ用ですが(写真15)、他にも寒冷地用や登山用があります。登山用の車椅子ではなんと、10人ほどで引っ張り上げたとはいえ、富士山登頂も果たしています。
ビーチ用車椅子は水陸両用です。水上では浮き、砂地の上ではバルーンタイヤのおかげで砂に埋まることなく進むことができます。ただし、人に引っ張ってもらうことが前提です。自走できると画期的なんですがね。これを単純に電動化してもおもしろそうです。

写真15

そり付き車椅子
既存の車椅子に最小限の改良でそりのアタッチメントを取り付けるタイプです(写真16)。こちらは、低価格が特徴ですが、基本的に自立走行はできません。
前輪にのみ、そりを付けたタイプもあり、こちらは自立走行が可能ですが、走破性は低くなります。
北国ではもっと普及して良いと思うのですが、中途半端にロードヒーティングが進んでいる都市部では、かえって頻繁な着脱が要求されて煩わしい一面があるようです。

写真17タイプはそのような不具合を解消するために開発された、頻波工業製。
前輪はスキーに穴があいており、キャスターが少し下に出ているため、脱着不要。
 ※むしろ、キャスターにスキーによる段差解消機能が付加されたようになります。
後輪は切り替えレバーを上げ下げすることにより、ワンタッチで切り替え可能。
 ※建物に入るとき、スキーを上げます。

写真16

写真17

クローラー付き電動車椅子

クローラー付きの電動車椅子です(写真18)。当然でてくる発想だとは思いますが、北海道発の冬道対応移動機器として期待しています。まだ、実証試験中ですが、やはりクローラーによる負荷は相当なものらしく、駆動系に大きな負担があるようです(展示中にシャフトが折れたりした)。
一応、積雪300ミリまでは走行可能ですが、
1.防寒問題(寒い)
2.低温下でのバッテリーの性能低下
3.速度の向上(現状では3.5Km/h)
などが、課題としてあげられています。
実際見た感じでは、走破性に関してアプローチアングルの不足と、振動が激しいので長時間乗っていると疲れるかな?という印象を受けました。

写真18

アタッチメントタイプの電動クローラー

車いすを利用する障害者や高齢者たちが雪道や凍結道でも、安心して移動出来る補助動力装置が札幌市に登場しました=写真19。道立工業試験場と道内の社会福祉法人が協力して開発。小型除雪機のエンジンと無限軌道を利用し、従来の車いすに取り付けるだけで、方向転換出来るほか、前輪を浮かせることで段差や積雪をうまく乗り越えられるように工夫されています。
冬は車でしか外出できず、困っていた車いす利用者たちにも試乗してもらい「安定していて乗り心地もいい」と好評。脱着を簡素化して、2004シーズンまでに商品化する予定です。

写真19

おわりに

今話題の(^_^;)スノーモービルを、バリアフリー化してはどうか?というアプローチも考えたのですが、工業試験場の産業デザイン部の方々と話し合った結果、あれは、曲がるためにかなり体重移動を必要とするので、健常者向きの乗り物ではないか?という指摘をいただきました。なるほど。
ちなみに、ここに紹介した製品は、すべて贅沢品とされて補助金の対象外です。高価格な製品が多いので、身体障害者が特に金持ちということはありませんから(むしろ苦労している人が多い)、購入は大変困難です。
アウトドアスポーツ用品は贅沢なのでしょうか?残念ながら普通の電動車椅子さえ希望者に行き渡っていない現状では、そういうことらしいです。
将来的には、この分野の製品開発と補助制度が整備されて、身体障害者と一緒に登山や山スキーを楽しめる日がくることを期待します。

極寒冷地などにおけるメカトロの進歩には目を見張るものがあります。たとえば、写真19は、北極で隕石を探しまわるロボットビークルです。このように、過酷な環境下でもAIで自立行動が可能になるほど 技術は進歩しています(火星探査機なんかもそうですね)。そこいら辺の技術のフィードバックが福祉分野に生かされると良いのですが。NASAとか取り組んでくれないかな?

これまで紹介したのは全部四肢に関する障害への対応ですが、視覚障害者のスキーはご存じですか?
通常はガイドの人の誘導で滑降するのですが、スキーの先端に鈴をつけて、それで雪面の振動を音で感じて滑降するというものもあります。ニセコで一度だけ見たことがありますが、その方は、一人でかなり込み合ったゲレンデをゆっくりとボーゲンで滑り降りていました。(びっくり!)。これはこれで凄いのですが、もう少しまともな誘導技術が開発されて欲しいところです。

PS.
そうそう、最近山に入る人の必携ツールとなっている携帯電話も、バリアフリーに凄く貢献しています。
四肢に障害のある人が、公衆電話に到達するのが難しい(電話ボックスに入れない)ので携帯を使うということ以外に、ろうあ者や聴覚障害の方のように通話ができなくても、携帯のメールサービスで意志疎通できるので大助かりなのです。これは、目からうろこでした。ハイ・テクノロジー製品は身体障害者にやさしくなくちゃいけません。いわゆる、ユニバーサルデザインの考え方ですね。
同時に、現状ではハイテク機器だけではサポートしきれない部分が多いのも確かですので、介助者や介助犬によるサポートも重要です。
介助犬を連れて、屋外で活躍している身体障害者(写真20)を見ていると、人と動物の共生の重要さを実感できて、心が和みます。


写真19

写真20


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