7tmチリG3
理想のリリース付きテレマークビンディングの制作記です。

はじめに
横方向だけでなく上方向にも開放され、軽くてスタイルも良い7tmは怪我すると困る私にとっては待望のリリース付きビンディングでした。
しかし、ヒールピースを繋ぐテンションベルトの下に容赦なく雪が詰まり、本州特有の湿り気の多いパウダーや新雪にはてき面で、どうもよく転ぶなぁと思ったらいつの間にか両足ともハイヒール状態。一度そうなるともう気になって気になってとっても不愉快。あまりの使えなさに腹が立ってきてツァー気分も台無しに。こりゃあ、ゲレンデと春の雪専用かと思っていたのですが、さりとてパウダーの時期にもリリースは欲しい。なんとかならないものかと思案橋。なんとかしました!

投稿者: 山下 晴光


●材料
いらない7tm 1台
これにリリース付いてたらいいのにと思うビンディング  1台
(ベイル部分が左右二つに別れている最近の物は精度出しが難しいのではないかと思います)
2ミリ厚 10×20センチくらいのステンレス板    1枚
(他に6ミリ厚アルミ板、2ミリチタン板も考えましたが、いくら6ミリでもアルミじゃもたないんじゃないかと思い、チタンの軽さは魅力だがステンの4倍の値段と持ち合わせる忍耐力を考えてステンレスに)

4ミリ径5ミリくらいの長さの皿ねじビス        8個(ステンレス)
6ミリ径30ミリ長 皿ねじボルト           2本(ステンレス)
使うビンディングによって6ミリではないかも
6ミリ径20ミリ長 皿ねじボルト           4本(ステンレス)
使うビンディングによって6ミリではないかも
6ミリ径の薄型ナット                 6個
ウェッジ                       1組
(いらない人は無くても可)
(普通のOA用紙で可)
快適なリリース付きビンディングを作ってやるというステンレスより固い意思と忍耐力 大量
7tmがお釈迦になっても後悔しないという、清水の舞台でカラオケ歌うくらいの勇気  少量

●必要な工具
1.バイス
2.センターポンチ
(できればオートポンチをお勧めします)
3.ステンレス対応の金鋸
(普通の形のと紐状の刃を使用)
4.電動ドリルとドリルスタンド
(ドリルスタンドは普通の電動ドリルを取り付けてボール盤にするためのものです。精度が出せるので一台あると重宝します。15,000円ほど)
5.ヤスリ
(20センチくらいの平ヤスリを主に小型のもの、時に丸型も)
6.4ミリ、6ミリのタップ、タップハンドル、下穴用ドリル刃
(3.3ミリ、5.1ミリ)
7.皿ぎり
(皿ねじの傘が入る部分を切削するためのビット。皿ネジを使用する場合には基本的に必要になるが、「マジッ?」てな値段)
8.ポスカのようなマーカー

●製  作
まずはこいつを外して単体にします。唯一、このクライミングエイドというのは簡単に起こしたり畳んだり出来て評価してたんですが、思いきって決別することにします。
(旦那注:いやぁ、意外と簡単にこのクライミングエイドはガタがきますし、上げ下げの操作も面倒です。そんなに評価されるものでもありませんョ)


ばらします。
もし、これを見て自分でもやってみようかと考えているあなた、失敗して元もこも無くなったらやだなぁと、少しでも思うならここで思い留まってください。これ以上進むと、もはや元には戻れません。それでもリリース付きの良いビンディングが欲しい場合はここで、清水の舞台でカラオケ歌うくらいの勇気を振り絞って次に進んでください。


ベイル単体にし、後ろのアールの着いている部分をバイスにくわえさせてベイル横の部分を金鋸で切り取ります。案外簡単に切れます。切れたら本体部分(以降、台と呼びます)の切り口をヤスリで丸めておきます。
この台を紙の上にひっくり返して置いて、つまり靴底が当たる方を紙に当てて、型紙を作ります。中央の橋と左右の出っ張りも紙に写しておきます。外形以外はそれほど精密に写す必要はありません。

作った型紙をステンレス板にセロテープで張り付けて外形をケガクなり、マーカーでなぞるなりしてステンレス板に写します。
中央の橋と左右の出っ張りの部分は次ぎの写真のようにくり抜くので、型紙の上から図形の内側3ミリくらいのところに適当にポンチを打っておきます。オートポンチなら金槌が要らないので片手で楽々です。ひとつ買っておくと何かと重宝します。もし、新たに購入するのなら多少高くても全金属製の物を選んでください。
上の方が樹脂のものは何かの拍子に割れてスプリングが飛び出して、釈迦になることがあります。経験より。

さて、マーキングが終わったら、ここからはステンレスとの格闘です。
ステンレスより固い意志と忍耐力の持ち合わせは充分ですか?
まず、外形にそって金鋸で切っていきます。先端のカーブのところはおおまかに直線で切った後、ヤスリで削って丸くします。
中央の橋と左右の出っ張りは先程打っておいたポンチの印しのところ に6ミリくらいのドリルで穴をあけ、金鋸で穴をつないで切り取ります。
この作業でステンレスの堅さを思い知ることになりますが、ここで負けては なりません。連続して穴をあけるとステンレス板が触れないくらい 熱くなります。切削部分に機械油をたらしながらの作業ですが流石に だんだんドリルの切れが悪くなるのが分ります。そうなったらドリル を交換して作業しましょう。 橋の部分の穴をつなげるには糸鋸のような形の金鋸を穴に通してから弓を固定して切っていきます。糸鋸というより 紐鋸という感じですが。穴を繋げてくり抜いたら、ひと休み。

ここからもっとも忍耐を要求される工程に入ります。くり抜いた部分をヤスリで次ぎの写真のように橋と出っ張りがうまく入るようになるまで整形します。橋の部分は大型平ヤスリ、出っ張りは中形平ヤスリと丸ヤスリを使いましたが別段、丸く仕上げる必要は無いので平ヤスリだけでも良いと思います。とにかくここは削っては合わせ削っては合わせで私も時々嫌になってしばらく放っておいたりしたので最初の片方を仕上げるのに1ヶ月近くかかりましたが、ここは気合いを入れて一気に仕上げてしまったほうが楽です。もう片方は穴開けから仕上げまで5時間くらいでやってしまいました。
台のほうは2シーズンほど使ったのでかなり変型していてピタッと密着はしませんが、橋や出っ張りにステンレス板が乗っていなければOKです。ここまで出来ればもう、苦労は9割がた終わったと言っても過言ではありません。

次の工程は台とステンレス板を固定する作業です。まず、エポキシ接着剤で台とステンレス板を接着します。これは仮留めです。接着剤が固まったら四隅にポンチを打ちます。無論、下に台のある場所にです。ここでたぶん接着が外れると思いますがそうなったらもう一度接着しなおしてください。そうしてここに4ミリビスのための下穴をあけますが、まだ台とステンレス板がしっかり固定されていないので、1箇所ずつ片付けて行きます。一度に4つの穴を開けてしまうと精度が出ないで4個目の穴を加工するときには上下で穴が食い違ってしまったりする可能性があります。
まず1個目の下穴を開けたら、皿切りを使って少し皿加工します。そうして4ミリタップをタップハンドルに取り付けてハンドタッピングしますが、ステンレス板と台の境目でかなり抵抗が出てきます。ここでエイヤッとタップを回そうものなら、いとも簡単に4ミリタップは折れてしまいます。無理をせず、1歩進んで2歩下がる要領で少し切っては戻り、戻ってはちょっと切り進むを繰り返します。私も3本折りましたが、折ってしまうと折れた部分を取り去るのがこれまた大変で、どうやって取るかに頭をかかえて考え込むことになります。ともあれ、ネジが切れたら皿切りに替えて今度はステンレスと皿ネジが面一(ツライチ)になるまで削ります。
実際にネジを入れてみて丁度良い深さまで削ります。できたら軽くネジを締めておきます。
強く締めると反対側が浮いてしまい、精度が出ませんので軽くです。
対角線に沿ってこの作業を片側につき4回、左右で8回行います。

できたら今度は強く締め付けて台とステンレス板を固定して、いよいよビンディング取り付け穴に取りかかります。
まず、上にビンディングを乗せて取り付け位置を確認します。適当にやると次の写真のように前の穴が台からはみ出したりします。とはいえあまり前に取り付けても今度はナットが入らなくなって困ったことになります。私は今回作ったものを新しい板に取り付けるので板への取付位置で調整できましたが、すでに7tmが付いている板にそのまま付けるとすると、たぶん、以前より後ろになると思います。最悪、板から全部とっパラって板への穴開けから始めなくてはならなくなる可能性があります。
それを念頭にビンディング取り付け穴の位置を決めて印しを付けますが、ウェッジを入れる場合はウェッジを入れた上でケガキ針などで印をつけ、オートポンチを打っておきます。
ウェッジを入れない場合はそのまま垂直に6ミリネジの下穴を開けてしまえばいいのですが、ウェッジを入れる場合は斜めに下穴を開ける必要があります。ので、まず3ミリドリルで垂直に穴を開けます。そうしてウェッジをドリルスタンドのテーブルに置いて、その先端部分(厚みのある方)の上に台の後端のRの部分が乗るように置きます。これを軍手をした手でしっかり押さえ、6ミリネジ下穴用ドリルを垂直に降ろします。これでうまく斜めに穴が開きます。
穴が開いたら皿切りで軽く削ります。今回は4ミリの時のように面一にする必要は無いのでタッピングのための皿切りです。このあと、4ミリの時同様、焦らずにネジを切っていきます。
うまく角度を合わせないとビンディング上でボルトの頭が飛び出してブーツがうまく入らないなんてことになりますので慎重に。

さて、ネジが切れたら実際にビンディングを付けてみます。前のボルトはステンレス板と台の厚みで4ミリのネジ部がありますが後ろはステンレス板だけなので2ミリしかありません。
これでは心もとないので薄手のナットを締め込んでおきますが、ウェッジを入れている場合はボルトが斜めになっているのでナットの当たり面が密着しません。本当ならステンレスの余りでカントを作って入れるべきですが、私はもはや力尽きています。2ミリとは言えネジが切ってあってこれがバカになった時のための用心のためのナットだからこれでしばらく使ってみることにします。
後は、ボルトの余った部分を切り取って、完成です。

2日間、ゲレンデで使ってみましたが不安はまったくありませんでした。7tmと比べてどうかというと、なんとなく剛性が増したようには感じますが「強いて言えば」ということで、ノーマルな7tmと付け替えて乗り比べてみた訳では無いので自信ありません。(ヒールピースの関係でちょっと無理があると思う) もともと雪詰まり対策で行った改造なのでツァーに出てみないとゲレンデでは真価は分りません。
問題の後ろのボルトですが、まだ2日程度ではガタが出ている様子はありません。
年末にニセコに4日ほど行きますのでここで耐久テストも行えると思います。
ちなみにナットを付けたせいで、スキーブレーキが付かなくなりました。もともとナットは考えていなかったのですが、ブレーキなんかなくても、ま、いっか、って感じです。
そうそう、ヒールピースが無くなってしまったので、適当なものを探してこなければなりません。手持ちのG3のものが踏み代を増やすキットをつけるとちょうどいい高さになるのでこれを流用しました。このキットを付けるには3ミリほどの穴をヒールピースに開けなければならないのですが、ヒールピースを裏返してみるとネジの入る穴は作ってあって、蓋がしてあるのですね。知らずにドリルを立てたらコロッと取れたのでわかりました。たぶん、裏から爪楊枝みたいなもので強く突いてやればポロッと取れるんではないかと思います。
ということで、7tmチリと言っていましたが正確には7tmチリG3という、3コ1のすさまじい改造(?)になったのでした。

追記:
2003年12月27日から30日までニセコにおりました。雪が少なくてBCは笹薮だらけで出られませんでしたが、ワイスやチセの未圧雪バーンを堪能しました。
7tmチリG3ですが、一度木に激突してリリースしましたが、特に工作部分にダメージもなく、なんといってもパウダー内で転倒して板が雪に埋もれてしまっても全然雪が詰まりませんでした。私は大変、嬉しい!!


ご注意!
これを見て自分でやってみたが失敗したとか、それで山に入って壊れて遭難したとしても、すべて自己責任です。当方は何の責任も取りません。
当然ですが無許可改造なので、ビンディングメーカーへの問い合わせなども止めて下さいね。